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福岡高等裁判所 平成12年(う)41号 判決

弁護人は,当審における訴因変更について,第一次予備的訴因及び第二次予備的訴因とともに,被害者に対する暴行の実行行為者,被害者に対する暴行行為の態様,暴行行為の場所について,いずれも特定が十分でなく,訴因の範囲が余りに広範囲に及ぶことになり,被告人の防御を実質的に害するものであり,控訴審におけるこのような訴因変更は許されない旨の主張をする。当裁判所は基本的には第一次予備的訴因に基づき有罪の認定をしているので,この点につき検討するに,被告人の防御上実質的利益を害しないと認められるときは,控訴審の段階であっても訴因変更を許すことができる(その訴因変更は原判決が破棄されることを条件とするものである。)と解するのが相当である。本件の場合,検察官並びに弁護人及び被告人の双方から事実誤認の控訴があり,控訴審においても事実の取調べを進めた結果,検察官からその証拠状況を踏まえ予備的訴因の変更請求がなされたものであるところ,訴因は,できる限り,日時,場所及び方法等を特定して明示すべきであるが,原審及び当審において取り調べられた証拠関係に照らして,致死的な暴行が加えられたことは明らかであるものの,その態様等については十分な供述が得られず,不明瞭な領域が残る場合においては,本件予備的訴因のようなある程度幅を持った特定にとどめるのはやむを得ないものであり,また,本件審理の状況に照らし,本件訴因変更を許可しても,所論のいうように被告人の防御を実質的に害するものとも認められないことから,本件訴因変更は許されるものと解するべきである。

なお,本件の事案の概要は以下のとおりである。

1 本件は,平成9年12月,福岡県前原市内の山林から白骨死体が発見されたことが端緒となり,同死体の身元を解明した警察が,被害者の人夫仲間である被告人らを死体遺棄罪等で逮捕した事案であるが,同死体がほぼ白骨化していたため,解剖医も死因は不明とし,ただ同死体に残された頭蓋冠,頭蓋底骨折は外傷性脳障害を引き起こして死亡の原因となり得る重大な傷害であるとした。しかし,検察官は,被告人らとともに被害者に暴行を加えたら被害者が動かなくなったとの共犯者の供述や被告人の概括的な一部自白等をもとに,傷害致死,死体遺棄罪で被告人を起訴した。その公訴事実は,被告人は①平成9年9月30日午後8時30分ころ,福岡市<以下省略>a旅館2階7号室において,C1ことC(当時29年)に対し,同人の頭部等に手段不明の暴行を加え,同人に頭蓋冠,頭蓋底骨折の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,同人を右傷害に基づく外傷性脳障害により死亡するに至らしめた②B,Aと共謀の上,同年10月1日ころ,福岡県前原市<以下省略>の山林内に,上記Cの死体を投棄し,もって死体を遺棄したものであるとの事実であった。

2 これに対し,一審は,証拠上平成9年9月30日の夜,a旅館2階7号室(以下,「a旅館」という。)において,被告人,B,A及び被害者が飲酒していたところ,被告人と被害者がけんかとなったこと,被告人が被害者の顔面等を手けんで複数回殴ったところ,被害者が一時失神して身動きしない状態になったこと,その後,被告人,B及びAの3名が,失神して不動の状態となった被害者を,自動車で前原市の山中まで運んで遺棄したことはいずれも認められるとした上,被害者が,a旅館における被告人の上記暴行により頭部に頭蓋骨骨折を負い,その結果外傷性の脳障害を生じて死亡したという訴因に記載された因果関係が証明されているか否かについて,上記態様,程度の暴行ではa旅館において被害者がその頭部に頭蓋骨骨折を負った経緯についての合理的説明が付かず,被害者を前原の山中に運んで遺棄する過程や遺棄後の事情によって頭蓋骨骨折の生じた可能性も否定できないことからすると,被害者が頭蓋骨骨折を負うに至った経緯については不明といわざるを得ないから,結局,被告人の上記暴行と被害者の死の結果との間の因果関係の証明が尽くされていないことになり,また,被告人らがa旅館にいた時点及び前原の山中に被害者を遺棄した時点のいずれにおいても,被害者が死亡していたことを認めるに足りる証拠もない,として,傷害致死の訴因について,「被告人は,平成9年9月30日,福岡市<以下省略>ビジネス旅館『甲野』2階7号室において,C1ことC(当時29歳)に対し,その顔面等を手けんで複数回殴打するなどの暴行を加え,よって同人に一時失神状態に陥らせる傷害を負わせた。」との傷害の限度で有罪とし,死体遭棄の訴因については,無罪とした。

これに対し,検察官は,本件全証拠を総合すれば,a旅館における被告人の被害者に対する暴行態様が特定されなくても,被告人が被害者に対して何らかの暴行を加えたことにより,同人に頭蓋骨骨折の傷害を負わせ,同人を右傷害に基づく外傷性脳障害により死亡させたことが認められ,また,被害者が死亡した時期を特定することは困難であるとしても,前原市の山中に遺棄された時点では既に死亡していたことが認められるから,被告人には傷害致死及び死体遺棄の各罪が成立することは明らかであるとして控訴した上,傷害致死につき次のとおり,予備的訴因変更を請求した。

第一次予備的訴因変更

「被告人は,単独又はA及びBと共謀の上,平成9年9月30日午後8時30分ころ,福岡市<以下省略>ビジネス旅館『甲野』2階7号室において,C1ことC(当時29年)に対し,同人の頭部等に手段不明の暴行を加え,同人に頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,同人を頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡するに至らしめたものである。

第二次予備的訴因変更

「被告人は,単独又はA及びBと共謀の上,平成9年9月30日午後8時30分ころから同年10月1日末明ころまでの間,福岡市<以下省略>ビジネス旅館『甲野』2階7号室内から福岡県前原市<以下省略>の山林に至る間において,C1ことC(当時29年)に対し,同人の頭部等に手段不明の暴行を加え,同人に頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害を負わせ,よって,そのころ,同所において,同人を頭蓋冠,頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡するに至らしめたものである。」

控訴審はこれら予備的訴因変更を許可した上,本判決において原判決を破棄し,傷害致死につき,上記第一次予備的訴因変更を容れ有罪としたが,その中で上記のとおり予備的訴因変更における訴因の特定につき判断を示したものである。なお,本判決が認容した犯罪事実は以下のとおり。

被告人は,A及びBと共謀の上

第1 平成9年9月30日午後8時30分ころ,福岡市<以下省略>ビジネス旅館『甲野』2階7号室において,C1ことC(当時29歳)に対し,同人の顔面,頭部等を殴打し,あるいは何らかの暴行を加え,同人に頭蓋冠,頭蓋底骨折等の傷害又は何らかの傷害を負わせ,よって,そのころ,同旅館2階7号室ないしは同旅館近辺の福岡市内において,上記傷害により死亡するに至らせ

第2 同年10月1日午前零時ころ,福岡県前原市<以下省略>の山林内に,上記Cの死体を運び込んで放置し,もって死体を遺棄した。

本判決は,併せて上記予備的訴因変更請求を許可しうることについて,冒頭のとおり判示したものである。

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